あなたの周りにもいませんか。

大きなプロジェクトでミスをしても「良い経験になった」と笑っていたり、上司から厳しいフィードバックを受けても「なるほど、次はこうしてみよう」とすぐに前を向ける人。

その姿を見るたびに、あなたは心の中でそっとため息をつくかもしれません。「どうして、あの人はあんなに打たれ強いんだろう」「それに比べて私は、一度の失敗で何日も落ち込んで、自分には才能がないんじゃないかって、どんどん自信がなくなっていく」

その違いは、生まれ持った性格や特別な才能の差なのでしょうか。

いいえ、もし、それがトレーニングで変えられる、単なる「思考のクセ」だとしたら。

実は、最新の脳科学では、失敗からの立ち直りの速さや心の強さが、私たちの「脳の使い方」に深く関係していることがわかってきているのです。

この記事では、「打たれ強いあの人」が持つ「しなやか思考(成長マインドセット)」の秘密を、脳の仕組みから優しく解き明かしていきます。

大丈夫。この記事を読み終える頃には、あなたも失敗を“成長のタネ”に変えるための、具体的な第一歩を踏み出せるはずです。さあ、一緒にその秘密を覗いてみましょう。

失敗を引きずる人、糧にする人の違いは「考え方のクセ」にあった

先ほどの導入で、失敗からの立ち直りの速さは、生まれ持った性格や才能ではないのかもしれない、という話をしましたね。

ではその違いは一体何なのでしょうか。答えは、私たち一人ひとりが無意識に持っている「考え方のクセ」にあります。

心理学の世界では、このクセを「マインドセット」と呼んでいます。そしてそれは、大きく2つのタイプに分けられることがわかっています。

例えば、大切なプレゼンテーションでうまく話せなかったとします。カチコチ思考の人は「私には人前で話す才能がない」と考え、次の機会を避けようとするかもしれません。一方、しなやか思考の人は「今回は準備が足りなかったな。次はもっと練習しよう。話し方教室に通うのもいいかもしれない」と、次への具体的な一歩を考えます。

あなたは、どちらの考え方に近いと感じましたか。

もちろん、いつも完璧にどちらか一方というわけではないかもしれません。普段はしなやかでいられても、疲れがたまっている時や、苦手なことの前では、ついカチコチになってしまう日もあるでしょう。

大切なのは、自分にそうしたクセがあることに、まず気づくことです。

そして、安心してください。もし今、カチコチ思考に陥りがちだと感じたとしても、そのクセは、正しい方法を知れば、必ず変えていくことができます。

次の章では、その希望の光となる、私たちの脳に秘められた素晴らしい仕組みについてお話ししますね。

「もう変われない」は思い込み。脳は一生育ち続ける科学的理由

前の章で、自分にも「カチコチ思考」のクセがあるかもしれない、と感じた方もいるかもしれませんね。そして、こう思ったのではないでしょうか。「もう大人だし、今さら性格や考え方のクセなんて変えられないよ」と。

確かに、長年慣れ親しんできた考え方は、まるで自分そのものであるかのように感じられますよね。

でも、安心してください。「大人の脳はもう成長しない」という考えは、今や少し古い情報になりつつあります。嬉しいことに、近年の脳科学の研究によって、私たちの脳はいくつになっても経験によって自ら変化し、成長し続ける力を持っていることがわかってきたのです。

この素晴らしい性質は、「神経可塑性(しんけいかそせい)」と呼ばれています。

少し難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、イメージはとてもシンプルです。脳はまるで、筋肉のようなものだと考えてみてください。筋力トレーニングをすれば、年齢に関わらず筋肉がついて体が引き締まっていくように、脳も、使えば使うほど、考えれば考えるほど、その部分の神経回路が強く、太くなっていくのです。

もう少し具体的に話しましょう。例えば、草がたくさん生えている野原をイメージしてください。あなたが「私はダメだ」と考えたとします。それは、野原の中に一本の道を作るようなものです。もう一度「やっぱり私には無理だ」と考えると、同じ道をまた歩くことになります。何度も何度も同じ道を歩いていると、草は踏み固められ、やがてくっきりとした「道」ができますよね。そうなると、無意識のうちにその道を歩くのが一番楽になります。これが「カチコチ思考」がクセになっていく仕組みです。

でも、ここで大切なのは、あなたは別の道も作れる、ということです。たとえ今は草が生い茂っていても、「この経験から何を学べるかな」と考え、意識して新しい一歩を踏み出す。何度もその新しい道を歩けば、そこにもやがて、しっかりとした歩きやすい道ができていきます。これが「しなやか思考」を育てていくということです。

つまり、あなたが何を考え、どう行動するか。その一つひとつが、あなたの脳を文字通り「育てて」いるのです。あなたは、自分の脳の最高のトレーナーであり、育ての親になることができます。

では、具体的にどうすれば、その新しい「しなやか思考」の道を、脳の中に作っていくことができるのでしょうか。次の章では、誰でも今日から始められる、とても簡単な3つの習慣をご紹介します。

誰でも簡単。今日からできる「しなやか脳」を育てる3つの習慣

脳はトレーニングで育てていける。その希望の光が見えたところで、ここからは具体的な「脳の育て方」をご紹介します。

難しく考える必要はありません。これからお話しするのは、今日からあなたの日常にそっと取り入れられる、3つの簡単な習慣です。

あなたの物語はここから始まる

ここまで、長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。

打たれ強いあの人と、失敗を引きずる自分。その違いは、才能ではなく「考え方のクセ」にあること。そして、私たちの脳は、いくつになってもそのクセを育て直せる、素晴らしい可能性を秘めていること。最後に、そのための具体的な3つの習慣。

これが、今回あなたにお伝えしたかった「秘密」のすべてです。

もちろん、今日からすべてが劇的に変わるわけではないかもしれません。長年慣れ親しんだ「カチコチ思考」の道は、思ったより強力で、ついそちらを歩いてしまう日もあるでしょう。

でも、大丈夫です。今日、あなたはこの新しい地図を手に入れました。もしまた道に迷っても、今日知ったことを思い出して、新しい一歩を踏み出せばいいのです。

一つひとつの出来事は、あなたの価値を決めるものではありません。それはすべて、あなたの物語を豊かにするための素材です。

あなたは、あなたの人生のシェフであり、あなたの脳の最高の育ての親。さあ、ここから、あなたの新しい物語を始めていきましょう。

その物語を、心から応援しています。